名古屋地方裁判所 昭和61年(ワ)1792号 判決 1988年1月29日
原告
大栗一男
ほか一名
被告
恩田管工事株式会社
主文
一 原告らの被告に対する請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告らに対し、各金一二七四万〇九八〇円および各内金一〇七四万〇九八〇円に対する昭和六〇年一一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 本件事故の発生
(一) 日時 昭和六〇年一一月二日午前八時二五分ころ
(二) 場所 愛知県小牧市大字小牧原新田六二七番地の四先路上
(三) 加害車 普通貨物自動車(尾張小牧一一さ六五一号、以下「加害車」という)
右運転者 遠藤征男(以下「遠藤」という)
(四) 被害車 自動二輪車(岐阜み六二九七号、以下「被害車」という)
右運転者 亡大栗一行(以下「亡一行」という)
(五) 態様 被害車が前記(二)の場所を名古屋市方向に向かつて道路左側を進行していたところ、その右側を同方向に向かつて進行していた加害車が急に左へ転把したため、加害車が被害車に接触し、被害車を転倒させたもの。
2 責任原因
(一) 遠藤は、約五年前から被告の水道工事等につき専属的下請関係にあつたものであり、その関係は、使用者・被用者関係と同視しうる程度であつた。
(二) 本件事故は、事故当日の仕事の打合わせのため、遠藤が被告方へ赴く途中で発生したものである。
(三) 遠藤は、左方の安全確認を怠り、急に加害車を、左へ転把した過失により、本件事故を惹起させたものである。
(四) 被告は、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という)三条、民法七一五条一項により原告らが受けた損害を賠償する責任がある。
3 損害
(一) 亡一行は、本件事故によつて、頭蓋底骨折、呼吸不全の傷害を受け、死亡したものである。
(二) 亡一行の死亡に伴う損害額は次のとおりである。
(1) 逸失利益 金二九五八万一九七一円
亡一行は本件事故当時二四歳の健康な独身男性で一か月二一万八〇五〇円の収入を得ており、今後、四三年間就労可能であつた。
(2) 慰藉料 金一九〇〇万円
亡一行は原告らの一人息子であつて、その行末に全ての望みをかけて来たものであり、亡一行の死は原告らに働く意欲を失わせる程である。
(3) 葬儀費用 金一〇〇万円
(4) 弁護士費用 金四〇〇万円
4 相続
原告らは、亡一行(昭和三六年九月九日生)の父母である。原告らは、昭和六〇年一一月二日亡一行の死亡により、亡一行の前記損害賠償請求権を各二分の一宛相続した。
5 損害の填補
原告らは、これまでに、自賠責保険から各金一二五五万〇〇〇五円及び、労災補償給付金として各金一五〇万円の支払を受けている。
6 結論
よつて、原告らは、被告に対し、各金一二七四万〇九八〇円及び各内金一〇七四万〇九八〇円に対する昭和六〇年一一月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1項の事実については不知。
2 同2項の事実については争う。
3 同3項の事実については不知。
4 同4項の事実のうち、原告らが亡一行の父母であることは認めるが、その余の事実は不知。
5 同5項の事実は認める。
第三証拠
本件記録の調書中の各書証目録、各証人等目録の記載と同一であるから、これらを引用する。
理由
一 本件事故の発生等
成立に争いのない甲第二号証、第七号証の五ないし一〇によれば請求原因1(本件事故の発生)の事実及び右事故により亡一行が死亡したことが認められる。
原告らが亡一行の父母であることは当事者間に争いがなく、成立に争いがない甲第一号証によれば原告らが亡一行を相続したことが認められる。
二 被告の責任原因
1 運行供用者責任について
原告らは、本件加害車両運転者遠藤が、被告の専属的な下請人であるから、加害車に対する運行支配は、被告に帰属する旨主張するので、この点について判断する。
(一) 証人遠藤征男の証言、被告代表者の尋問結果及び弁論の全趣旨によれば、被告は、上下水道設計施工、各種配管設備及び溶接工事一式、設計施工等を主たる業務とする資本金五〇〇万円の株式会社であり、正式従業員は二名位であること、遠藤は遠藤工事という屋号で水道配管業を営む者(従業員は一名位)で、被告の下請を本件事故発生日の四、五年前から行なつており、一年のうち約六か月は被告の下請けをし、残りの六か月は他者(被告とは無関係)の下請をしていたこと、被告は遠藤に対し、被告所有の車両を常に貸与する関係にはなく、現に加害車も遠藤の所有であつたこと、被告は遠藤所有の加害車の保管場所やガソリン代を提供していないこと、加害車には被告の名称は書かれておらず、遠藤工事と書かれていること、遠藤が仕事で使用する工具類もほとんど遠藤所有であること、遠藤に対し被告からの仕事と他者(被告と無関係)からの仕事が同時に来た場合遠藤はより報酬の高い方の仕事を選択し、被告からの仕事を断わることができる状況にあり、現に遠藤が被告からの仕事を断わつたことも何度かあつたこと、本件事故は、被告が小牧市から受注した仕事の打ち合わせをするため、遠藤が被告方へ赴く途中に発生したものであり、当時遠藤はまだ具体的に下請工事に着手していなかつたこと、被告は、本件事故当時、遠藤に対し加害車の運行経路、運行方法について何ら指示をしていないことが認められる。
(二) これらの認定事実によれば、本件事故当時、遠藤には、仕事を自ら選択しうる余地が残されていたのであり、被告が一般的に遠藤を支配し、その専属下に置いていたものとはいえない。したがつて、被告が本件事故当時において加害車の運行に対し、支配を及ぼしうる地位にあつたとは認められないのであつて、この点から、原告らの右主張は理由がない。
したがつて、原告らの被告に対する自賠法三条に基づく請求は失当である。
2 使用者責任について
前記認定のとおり本件事故は、遠藤が被告方へ仕事の打合わせに赴く途中で発生したものであるが、前記のとおり、遠藤は被告の専属的下請ではなく、本件事故は遠藤に対し被告の指揮監督関係が及んでいる時に発生したとはいい難く、被告と遠藤との関係が民法七一五条一項所定の使用者と被用者との関係と同視しうる場合とはいえず、また遠藤の本件加害車運転行為は被告の事業の執行につきなされたとはいえない。
よつて、原告らの被告に対する民法七一五条一項に基づく請求も失当である。
3 その他、被告に対し本件事故による原告らの損害につき賠償責任を肯認するに足る事実を認めるに足る証拠はない。
三 以上の理由により、被告には、本件事故につき何ら責任原因が認められないので、その余の請求原因事実について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないから、これを棄却すべきである。よつて訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九三条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 神沢昌克)